――寅さんより、ウルトラマンだった俺
8月27日。
今日は「男はつらいよ」の日なんだそうだ。
1969年、昭和44年の8月27日。
映画「男はつらいよ」の第1作が公開された日。
もう57年も前の話である。
57年……。
こう書くと、とんでもなく昔のことに感じる。
ところが俺にとっては、なぜか昨日のことのような記憶もある。
昭和44年、俺は3歳。
そう。
まだ3歳だ。
だから正直に言うと、昭和44年に映画館で寅さんを見ていたわけじゃない。
そんなわけない。
3歳の俺が興味を持っていたのは、
寅さんじゃない。
ましてやサッカー選手でもない。
ウルトラマンだ。
昭和の3歳児なんて、だいたいそんなもんだ。
「シュワッチ!」
これである。
■昭和44年、3歳の俺が見ていたもの
1969年。
アポロ11号が月面に着陸した。
これは子ども心にも、とんでもないニュースだった。
「人間が月に行った!」
テレビの中で宇宙飛行士が月に降りる。
今なら当たり前のように映像を見ることができるけれど、当時は本当に未来の出来事だった。
そして、その翌年。
1970年、大阪万博。
俺は4歳。
「こんにちは、こんにちは~♪」
大阪万博の太陽の塔。
月の石。
外国。
未来の乗り物。
昭和の日本中が「未来」にワクワクしていた時代だった。
俺たち子どもも、
「未来ってすごいんだな」
なんてことを、ぼんやり感じていたんだろう。
ただし俺の場合、
未来の科学技術より、
ウルトラマンのほうが重要だった。
まあ、4歳児だから仕方がない。
■寅さん? 最初は「なんだ、この変なおじさん」
「男はつらいよ」の第1作が始まったのは昭和44年。
でも、3歳の俺が、
「おお、寅さんが始まったぞ!」
なんて言うわけがない。
そもそも、寅さんの存在をちゃんと意識したのは、もう少し後だ。
小学校に入る頃。
テレビなどで寅さんを見て、
「なんだ、この変なおじさんは?」
くらいの感覚だったんじゃないだろうか。
いつも旅に出ている。
口が達者。
人情話になる。
女性に惚れる。
そして振られる。
また柴又へ帰ってくる。
子どもの俺からすると、
「なんだか変なおじさんだけど、面白いな」
そんな存在だったと思う。
まさか、その男を60歳になった今、こんなにしみじみ見ることになるとは思わなかった。
■あの頃の俺にとって「40歳」は、ものすごく大人だった
寅さんの年齢設定は作品によって少し揺れがあるらしい。
第1作では40歳前後として描かれている。
それを今の俺が見る。
すると、妙な気分になる。
子どもの頃の俺から見れば、
40歳なんて、
完全な大人。
もう人生のことは全部分かっている。
仕事もできる。
家庭もある。
何でも知っている。
そんなふうに思っていた。
ところがどうだ。
自分が60歳になってみると、
全然分かっちゃいない。
朝起きて、
「今日は何食べようかな」
昼になって、
「ちょっと眠いな」
夜になって、
「ビールでも飲むか」
そんなことを考えている。
子どもの頃に想像した60歳と、
実際の60歳。
全然違うじゃないか。
■そして気がつけば、寅さんより年上
ここが一番おかしい。
子どもの頃、
「寅さんは大人だなあ」
と思って見ていた。
その俺が今、
60歳。
寅さんより年上になってしまった。
おいおい。
いつの間にこうなったんだ。
昭和44年に3歳だった少年が、
57年後には、
寅さんを見ながら、
「俺のほうが年上じゃないか」
なんて言っている。
人生というのは、本当に不思議なものである。
■昔は「また寅さん、振られたよ」と笑っていた
若い頃は、寅さんが女性に振られるたび、
「またやってるよ」
と笑っていた。
ところが60歳になって見ると、
ちょっと見方が変わる。
「寅さんも、いろいろあったんだろうな」
と思う。
家族に心配される。
周りから叱られる。
好きな人ができる。
うまくいかない。
それでも旅に出る。
そして最後には帰ってくる。
若い頃には、
ただのドタバタ喜劇だった。
今見ると、
人生そのものに見えてくる。
■昭和の頃は、もっと人と人が近かった
今はスマホがある。
どこにいても連絡できる。
分からないことがあれば検索できる。
道に迷えば地図が教えてくれる。
便利になった。
本当に便利になった。
でも、寅さんの時代には、
知らない人に、
「すみません、ちょっと聞きたいんですが……」
と声をかけるしかなかった。
旅先で人と話す。
飯を食う。
酒を飲む。
喧嘩する。
仲直りする。
恋をする。
今考えると、ずいぶん人間臭い。
でも、なんだか温かい。
■昭和44年の3歳児へ
もし昭和44年の3歳の俺に、
今の俺が会えるとしたら。
「おい、坊主」
と言ってやりたい。
「お前、これから長いぞ」
「大阪万博も見るぞ」
「テレビもどんどん変わるぞ」
「携帯電話なんてものまで出てくるぞ」
「最後にはスマホなんていうものを持つぞ」
たぶん3歳の俺は、
そんな話を聞いても興味がない。
それより、
「ウルトラマンは?」
と聞くだろう。
「いるよ」
「まだ人気だよ」
そう答えてやる。
すると、
「じゃあいいや」
と言って、またテレビを見る。
まあ、そんなもんだ。
■寅さん、俺も60歳になりましたよ
寅さん。
俺も60歳になりましたよ。
あの頃は、
「なんだ、この変なおじさん」
くらいに思っていた。
でも今見ると、
あなたの気持ちが少し分かるようになりました。
自由でいたい。
でも寂しい。
人と関わりたい。
でも面倒くさい。
好きな人ができれば嬉しい。
でも、うまくいかない。
家族に怒られる。
でも最後には帰る。
それでも、
また明日が来る。
なんだか俺たちと大して変わらないじゃないか。
■男はつらいよ。
60歳になって分かった。
男はつらい。
仕事もつらい。
金のこともつらい。
身体もつらい。
人間関係もつらい。
でもね。
それだけじゃない。
うまい酒がある。
うまい飯がある。
昔話がある。
笑えることがある。
旅にも行ける。
そして、
まだまだ人生の途中だ。
昭和44年。
3歳だった俺は、
寅さんよりウルトラマンが好きだった。
大阪万博にワクワクした。
アポロ11号の月面着陸に未来を感じた。
そして小学生になって、
テレビで寅さんを見て、
「なんだ、この変なおじさん」
と思った。
それから57年。
気がつけば俺も60歳。
そして今、
寅さんを見ながら、
「俺のほうが年上になっちゃったよ」
と笑っている。
人生ってのは、
なかなか面白い。
今日のアラカンマンのひとこと
「3歳の俺はウルトラマンになりたかった。
7歳の俺は寅さんを見て『変なおじさんだな』と思った。
そして60歳の俺は……ちょっとだけ寅さんの気持ちが分かる。」
男はつらいよ。
でも、
人生、まだまだ捨てたもんじゃない。
今夜は寅さんでも見ながら、
ビールを一杯。
「寅さん、乾杯!」
アラカンマンより。

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